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プロローグ:迷える心

東京の喧騒の中、28歳のOL、日向あおいは、

いつもの通勤電車に揺られながら、深いため息をついていた。

 

「また今日も、同じ日々の繰り返し...

 

あおいは、大手企業の総務部で5年目を迎えていた。

周りから見れば、安定した職場で順調なキャリアを歩んでいるように見えるかもしれない。

しかし、彼女の心の中は違っていた。

 

日々の単調な業務、変化のない人間関係。プライベートでも、新しい出会いや挑戦がなく、

日々がマンネリ化していることに、あおいは強い不満を感じていた。

 

「このままじゃ、私の人生、なんにも変わらないんじゃ...

 

そんな思いを抱えながら、あおいは会社に到着した。

机に向かい、いつもと同じようにパソコンの電源を入れる。

しかし、今日はなぜか、いつも以上に心が重かった。

 

「私、このままでいいのかな...

 

昼休憩。あおいは、会社近くのカフェに足を運んだ。

「リスキリング」という言葉を最近よく耳にする。

自分のスキルを磨き直し、新しいキャリアを築くこと。

それが今の自分に必要なのかもしれない。

 

そんな思いを胸に、あおいは

「リスキリングの極意」という本を手に取り、静かに読み始めた。

 

「どうすれば、私も変われるのかな...

 

そんな思いに浸っていると、突然、温厚な男性の声が聞こえてきた。

 

「突然すみません、その本、面白いですか?」

 

あおいが顔を上げると、50代半ばくらいの、

優しい目をした男性が立っていた。

白髪交じりの髪と温和な笑顔が、何か信頼感を与えるオーラを放っていた。

 

「あ、はい...まだ読み始めたばかりですが」

 

あおいは少し戸惑いながら答えた。

 

男性は微笑んで続けた。

 

「私もびっくりしちゃったのですが、実は、その本、私が書いたんです。

はじめまして、中島克也と申します」

 

「えーーー?」

 

あおいは驚きのあまり、思わず本を落としそうになった。

「中島先生...ですか?」

 

中島は穏やかに頷いた。

「はい。びっくりですよね。なにかの縁ですから、もしよろしければ、少しお話しませんか?

なんでまた、この本を手にとったのか?とか。

リスキリングのことならば、お答えできることもあるかもしれませんし」

 

あおいは一瞬躊躇したが、中島の温かい眼差しに安心感を覚え、ゆっくりと頷いた。

 

「実は...

 

あおいは、自分の現状や悩みを中島に打ち明け始めた。

仕事でのモチベーション低下、キャリアの停滞感、

そして何より自分自身の成長が止まっているという焦りについて語った。

 

中島は真剣な眼差しであおいの話に耳を傾けていた。

彼女が話し終えると、優しく微笑んで言った。

 

「あおいさん、あなたの気持ち、よくわかります。

私も若い頃は同じような悩みを抱えていました。

そして、多くの人が同じ問題に直面しているんですよ」

 

「そうなんですか?」あおいは少し安堵の表情を浮かべた。

 

中島は頷いた。

「ええ。でも、あなたがその悩みに気づいて、

何かを変えようとしているのは素晴らしいことです。

それが変化の第一歩なんです」

 

「でも...どうすれば良いのか分からなくて」あおいは俯いた。

 

中島は静かに言った。

「あおいさん、『トラジマ』という言葉を知っていますか?」

 

「トラジマ?」あおいは首をかしげた。

 

「トランジションマネジメントの略です。つまり、自己変容のマネジメントのこと。

リスキリングの核心とも言えるものです」中島は熱心に説明した。

「変化の激しいこの世の中で、しなやかに対応しながら生き抜く力なんです」

 

「自己変容...

あおいはその言葉を噛みしめるように繰り返した。

 

中島は続けた。

「そして、その過程で必要なのが『トラジマインド』。

自己変容に挑戦し続ける人たちがもっているマインドのことです。

行動変容をするときに必要なマインドとアクションのことですね」

 

あおいの目が輝いた。

「それが、先生の…この本に書かれていることなんですね」

 

「その通りです」

中島は嬉しそうに笑った。

 

「あおいさん、もしよければ、私がトラジマとトラジマインドについて、

実践を交えながらお教えしましょう。週に1回、このカフェで会って話をしませんか?」

 

あおいは驚きと喜びを隠せない様子で答えた。

「本当ですか?ぜひお願いします!」

 

中島は温かく微笑んだ。

「ただ、私も出張や講演でここで会えない週もあるかもしれません。

そんな時は、Zoomやチャットでショートコーチングをさせていただきます。それでもよろしいですか?」

 

「はい、もちろんです!」

あおいは元気よく返事をした。

 

「素晴らしい」

中島は満足げに頷いた。

「では、来週の同じ時間にここで会いましょう。

その間に、あなたの目標や悩みについて、もう少し具体的に考えておいてください」

 

カフェを後にする時、あおいの胸には小さな希望が灯っていた。

来週から、自分の人生が少しずつ変わっていく。

そんな予感に、久しぶりにワクワクする気持ちを感じていた。

 

 

「自己変容に挑戦し続ける人たちがもっているマインドのこと…トラジマインド」

中島の言葉が、あおいの心に深く刻まれていた。